社会的な場面で生じる過剰な不安や恐怖
例えば、結婚式の披露宴でスピーチをする時など、人前に立った時の緊張やあがりは、誰にも経験があることでしょう。緊張などが通常のレベルならば、それはごく自然な心理的反応です。しかし、社交不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)の患者さんは、あらゆる社交的場面や「人前で話す」「注目を浴びる」「電話に出る」などの特定の状況で行動する際に、不安な気持ちや、そこから逃げ去りたいという強い衝動、ひいては恐怖心さえも抱きます。
つまり、社交不安障害とは、単なる内気やはずかしがりといった性格の問題ではなく、社会的な場面で、不安や恐怖を過剰なまでに感じてしまう心の疾患なのです。
社会生活に支障をきたすケースも
社交不安障害には、紅潮や発汗、動悸、震え、腹痛などの身体症状が伴うケースもあります。さらには、このような症状が再度出現してしまうのではないかという不安(予期不安)から、人の集まる場面や人前での行為を避けるようになり(回避行動)、学業や就業、結婚などの社会生活に支障をきたす場合もあります。また、症状が慢性化してくると、うつ病やパニック障害、アルコール依存症など、他の精神疾患の合併が懸念されたりもします。例えば、不安な気持ちを抑えようとして、アルコールの多量摂取が習慣化し、アルコール依存症になるようなケースです。
社交不安障害の症状(※人の目にさらされる場面において)
- 異常に緊張する
- 字を書こうとすると手が震える
- 手足や全身、声が震える
- 顔がほてって赤くなる
- 脈が速くなり、息苦しくなる
- 通常よりもたくさんの汗をかく
- 吐き気を何度も繰り返す
- 口が渇いてカラカラになる
- トイレが近くなる、あるいは尿が出なくなる
- めまいがする
- 怖くて電話に出られない
- 視線に恐怖を感じる など
社交不安障害の原因
社交不安障害の原因は、まだはっきりとは解明されていませんが、恐怖症状を抑える作用のある神経伝達物質(セロトニン)の不足によるのではないかと考えられています。
セロトニンが不足する要因としては、過去に人前で恥ずかしい経験をしたことがあるなどの「経験的要因」、他人の目を気にし過ぎる、人見知りなどの「性格的要因」、また、この疾患に生来的になりやすい「遺伝的要因」などが挙げられています。
また、セロトニンと同様に、ドーパミンという神経伝達物質が不足することも不安を誘発すると推測されています。こうした物質の不足が改善され、神経の伝達機能が正常に働くようになれば、不安症状は生じにくくなると考えられています。
社交不安障害の治療
前述のように、社交不安障害は、セロトニンなどの脳内神経伝達物質の不足によって起きると考えられています。そのため、脳内神経伝達物質のアンバランスを整え、脳の機能を調整する薬物による治療、および認知行動療法を、単独、もしくは組み合わせて治療していきます。治療は、数ヶ月に及ぶ長い期間を要するケースもありますが、長引いても焦らずに、ゆっくりと改善していきましょう。
薬物療法
抗うつ薬(SSRIなど)や抗不安薬を用いて治療します。薬の効果は飲み始めて1ヶ月ほどで現れてきます。しかし、症状の改善がみられたからといって、この時点で服用を止めてしまうと、再発の可能性が生じます。症状が軽くなっても自己判断で中断したりせず、必ず医師の指示に従ってください。
認知行動療法
認知行動療法は、考え方や物の捉え方、ひいては行動を変えていく精神療法です。
しっかりと現実に向き合えるよう、不安を抱きやすい考え方のパターンを変えたり、不安にうまく対処したり、不安に慣れたりする訓練を行います。